名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年(ネ)145号 判決 1956年2月20日
控訴人 北畑幸助 外一名
被控訴人 木下正信
主文
原判決を左のとおり変更する。
控訴人等は連帯して被控訴人に対し、金三十万円及びこれに対する昭和三十年二月二十五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人等の連帯負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決中控訴人等敗訴の部分を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、原判決二枚目裏四行目に「金三十万円」とあるのを「金三万円」と訂正し、なお、(一)控訴人は被控訴人に対し(イ)昭和二十九年六月二十五日金一万五千円(ロ)同年七月二十八日金一万五千円(ハ)同年八月二十五日金一万五千円(ニ)同年九月二十九日金一万五千円(ホ)同年十一月五日金一万五千円(ヘ)同月二十五日金一万五千円(ト)同年十二月二十五日金一万五千円(チ)昭和三十年一月二十五日金一万五千円合計金十二万円を交付し、なお昭和二十九年六月二十五日金一万五千円を謝礼として交付したのであるが、右が元金の弁済でないとするならば、本件金員貸借契約については利率の定めがなかつたので、利率は当然法定利率の年五分となるから、右金十二万円のうち年五分の割合に相当する昭和二十九年六月二十五日から同年十一月二十日までの利息及びその後昭和三十年二月二十四日までの損害金計一万円以外の金十一万円は元本の弁済に充当されたこととなり、残存元本は金十九万円である。(二)仮に、元金三十万円に対し利息一ケ月金一万五千円の約定があつたとしても、控訴人はその各月の利息を先例として先払いしているので、各月の始めに利息制限法の最高の利率である年一割八分(月一分五厘)により計算した金額を超過する部分は、元本の支払に充てたものとみなされる。しかも、賠償額予定の約定がなかつたから、期限後の損害金についても利率は月一分五厘である。従つて、右超過部分を順次元本に充当して計算すれば、昭和三十年二月二十四日における残存元本は結局金二十一万三十八円となる。と述べたほかは、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
証拠<省略>
理由
成立に争がない甲第一号証、同乙第一号証、原審証人清水勇吉の証言、当審における被控訴本人訊問の結果を綜合すれば、被控訴人は昭和二十九年六月二十五日控訴人北畑幸助に対し、控訴人清水順一連帯保証のもとに、金三十万円を、利息は月一万五千円毎月払、返済期は同年十一月二十日と定めて貸与したこと(もつとも、控訴人北畑幸助は被控訴人から右日時金三十万円を控訴人清水順一連帯保証のもとに借受けたことを争わない)が認められる。
控訴代理人は昭和二十九年六月二十五日から昭和三十年一月まで合計金十三万五千円を元金に支払つた旨主張し、被控訴人は昭和二十九年七月から昭和三十年一月まで毎月一万五千円宛合計金十万五千円を利息として受取つたと抗争するから、考えてみるに、成立に争がない乙第一号証、同第四号証、同第六号証、原審証人清水勇吉の証言及び当審における控訴本人北畑幸助訊問の結果によつて成立が認められる乙第二、三号証、同第五号証、同第七、八号証、原審証人清水勇吉の証言、当審における被控訴本人訊問の結果を綜合すれば、控訴人北畑幸助は被控訴人に対し昭和二十九年六月二十五日から昭和三十年二月二十四日までの利息及び損害金として一回に金一万五千円宛合計金十二万円を任意に支払つたのみで、元金はまだ少しも支払つていないことが認められるのであり、これにていしよくする当審における控訴本人北畑幸助訊問の結果は信用しない。
ところで、元金三十万円に対する月一万五千円即ち月五分の割合による利息が利息制限法第一条第一項所定の年一割八分の率をこえるものであり、その超過部分は無効なものと謂うべきであるが、前記認定のとおり控訴人北畑幸助が任意に支払つたのであるから、右金十二万円のうち超過部分はその返還を請求することができないことは明かであり、又該超過部分を元本の支払に充てたものと解する理由もなく、更に右利息を天引したことを認めるに足る証拠がない本件にあつては、利息制限法第二条に則り、超過部分を元本の支払に充当したものとみなすこともできない。従つて、この点に関する控訴代理人の主張は採用する限りではない。
また控訴代理人は被控訴人の妻の行為によつて控訴人等の被控訴人に対する弁済を不能ならしめたと主張するけれども該事実を認むべき何等の証拠もないから右主張も採用しない。
そうすると、控訴人等は連帯して被控訴人に対し、金三十万円及びこれに対する昭和三十年二月二十五日から完済に至るまで年一割八分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものと謂わなければならない。
よつて、被控訴人の本訴請求は右認定の範囲内である金三十万円及びこれに対する昭和三十年二月二十五日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度において正当であり、その余は失当として棄却すべきところ、原判決は右と一部符合しないところがあるから、これを変更することとし、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第九十二条、第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石谷三郎 岩崎善四郎 山田正武)